言葉は嘘をつかない
言葉は嘘をつかない
— “あり方”と“選ぶ言葉”は必ず一致する —
丁寧に説明しているのに、なぜか伝わらない。
正しいことを言っているのに、なぜか響かない。
コミュニケーションの仕事にいると、
そんな瞬間に何度も出会います。
私なりの仮説になりますが、
その違いを決めているのは、
「言葉」そのものよりも、
**その言葉を発している“意識そのもの”**なのかもしれません。
“言葉は嘘をつかない”という静かな話を書いてみました。
■ はじめに
コミュニケーションに関わる仕事をしていると、
丁寧で正しい言葉を使っているはずなのに、
どこか “ひっかかる響き” を感じることがあります。
言っている内容は正しい。
説明もスマート。
だけれど、なぜか本質に触れていないような気配が残る。
そんな瞬間に触れるたび、私は思います。
言葉そのものよりも
**「どんな意識から発せられた言葉なのか」**が
すべてを表してしまうのだと。
■「正しさの言葉」が、ずれてしまう瞬間
コーチングの場や書籍を通じて、こんな表現を耳にすることがあります。
・クライアントが答えを持っている。だから私は＜教えない＞
・クライアントに＜気づかせる＞ため、効果的な質問をする
・クライアントから＜引き出す＞ことがコーチの役割
一見もっともらしいが、なぜか違和感が残る。
それは、その言葉が
**「主体はコーチである」**ことを暗に示してしまっているからです。
言葉の裏側にある響きを少し変換してみると、
・私は、あえて教えない
・私は、気づかせてやる
・私が、引き出してやる
このような **“コーチ主語の世界”**が立ち上がってくる。
主役はクライアントであるはずなのに、
語られる文脈は **「コーチがどうするか」**で満ちてしまう。
このほんのわずかなズレは、
感受性の高いクライアントほど敏感に察知します。
そして、察知すらなければ、さらに厄介です。
クライアントが自分の意思で気づき行動するのではなく、
“コーチに依存する関係”をつくりかねないから、です。
■「あり方」を語るが、矛盾するとき
さらに、これもよく耳にしますが、
コーチングの重要性を語るシーンで、こう続くことがあります。
・あり方が大事
・Beingがすべて
・スキルではなくスタンスだ
ところがその直後に、こう続くケースがある。
・あそこのコーチングは＜○○型のコーチング＞をしている
・コーチングが＜うまくなりたい＞人は、まずこのやり方を学ぶべき
・＜私でさえ＞できなかったことができるようになる
……ここに強い矛盾が生まれてしまう。
あり方を語っているにも関わらず、
使っている言葉に、なぜか 評価・比較・自己顕示が
宿ってしまっているように感じる。
どれだけ言い回しが美しくても、
言葉は 本音の重心を隠しません。
■ 言葉を“研ぎ澄ます”とは、表現を整えることではない
誤解してほしくないことがあります。
「言葉を丁寧に扱う」「語彙を磨く」「表現を洗練させる」
もちろんすべて大切です。
ただ、その前にあるべきなのは、
いま、私は何を大切にしているのか。
この一点に向き合うこと。
私自身も
コーチングやファシリテーションなど
対話の世界にいる一人としての戒めも込めて、
言葉の扱いの感覚を研ぎ澄ませたいと思っています。
丁寧な言葉を使えば誠実になるわけでも、
専門用語を使えば深みが出るわけでもない。
ひとつひとつの言葉の奥にある
「まなざし」こそがすべて。
■ 結局、言葉は“隠せない”
人は、自分が立っている場所からしか話せません。
・良く見せたい
・正しさをまといたい
・評価されたい
そんな意識のとき、言葉は上滑りし、
真意が伝わらない“偽りの表現”になってしまう。
逆に、
ただ真摯に誠実に、すべてに向き合っているとき、
言葉は驚くほどシンプルでまっすぐになり、
深く、静かに届いていきます。
言葉は嘘をつかない。
どんなに着飾っても、その奥の“意識”が透けてしまう。
■ おわりに
コーチングの本質は、
スキルでも流派でもありません。
目の前の相手をどう扱うか。
その姿勢から生まれる言葉こそが、対話のすべて。
表現より、あり方。
方法より、まなざし。
その瞬間に立ち上がる言葉は、必ず相手に届きます。
言葉は、本音の位置を正確に映す鏡だから。
